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キドこうか
キド効果
海野 十三
「新青年」1933(昭和8)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,298 字 · 25 页
さて事件のあった朝というのが、こと稍旧聞に属するが去年の夏八月の某日のことだった。午前七時丁度という時刻にこの博克図駅を問題の列車は興安駅の方へ向って進発したのだった。長時間の夜汽車だったもので、室内は煙草のひどい煙と、悪食乗客の口臭と、もう随分永く女なしでいる若い旅行者たちの何というかオトコ臭い匂いとで、ムッと咽せかえるような実に堪えがたい一夜だった。それが間違いなくやってきた黎明と共に、ガタンと落とした窓からスースー脱けていってしまって、代りに新鮮な空気が、新鮮な朝という容器に盛られてみなみなに薦められ、ホッと蘇生したような気持になった。殊に列車が博克図を出てからは、窓外にスクスクと伸びた白樺の美林が眺められ、乗客も乗務員ももう何事も忘れて、貪るように朝の空気を肺臓へ送りこんでいた。
「あの白い白樺の幹と、女の股とは、どっちが色が白いだろうなア」
「ウン。うわッはッはッ」
「うわッはッはッ」
神をも恐れぬというべきであろうか、何といっても此処は奥地を走る列車内のことである。こんなあられもない言葉を吐き出す一団が、ひと車輛全部を貸切りにしていても、あえて驚くにはあたらない。