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ゴールデン・バットじけん

ゴールデン・バット事件

海野 十三

「新青年」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,946 字 · 46 页

青空文庫

外へ出ると、帆村はどんどん先に歩いて丘田医師の玄関に立った。案内を乞うと、太ったお手伝いさんが出て来たが、丘田氏は幸い在宅とのことだった。私は何ヶ月振りかに、その応接室に通った。

「いや中々結構な住居だネ」と帆村は大いに興がった。そこへ丘田医師があらわれた。

「やあ其の後は――」と帆村は馴々しく挨拶をした後で直ぐ云った。「今日は本庁の臨時雇というところでして、ちょっと先生のところの劇薬の在庫数量を拝見に参りましたが」

「なに劇薬の在庫数量ですか。それは又珍らしい検査ですネ」そういう丘田医師の態度には、すこしの狼狽のあともなかった。「じゃ向うの調剤室までお出でを願いましょうか」

帆村は私を促して診察室を出た。調剤室はすこし離れた玄関脇にあった。その中へ入ると、プーンと痛そうなくすりの匂いが鼻をうった。三方の高い壁には、十四五段もありそうな棚が重っていて、それに大小とりどりの薬壜が、いろいろのレッテルをつけてギッシリ並んでいた。

劇薬は一隅に設けられた戸棚の中に厳重に保管されてあった。丘田医師は鍵を外して、ガラガラとその扉を開くと、黒いレッテルや赤いレッテルの貼ってある小形の壜が、気味のわるい圧力を私達の上になげつけた。