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ゴールデン・バットじけん

ゴールデン・バット事件

海野 十三

「新青年」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,946 字 · 46 页

青空文庫

それは某内科の病室に収容せられた風景だった。

チェリーはベッドの上から、切れ切れに一切を予審判事に告白した。

金が重傷をうけたあの頃は、チェリーが君江よりも一歩進んだ、金の寵愛を得ているときだった。金は前にも云ったように、魔薬の入った煙草でもって女たちを自由にしていた。その資本は、金が秘蔵していた一袋のヘロインというモルヒネ剤だった。

ところがこの大切な資本が、或る日金の部屋から見えなくなったのだ。それは大事件だった。命に関する出来ごとだった。彼は気が変になったように部屋の中を探したが、どうしても出て来なかった。そのうちにだんだんと中毒症状が出てきたので彼はかねて懸りつけの丘田医師をよんで、投薬を頼んだ。それから以来というものは、一日に何回となく丘田医師のもとに哀訴を繰りかえさねばならなかった。ただ然し中毒者のことであるから、服薬したあとの数時間は、普通と異らぬ爽快な気分で暮らすことが出来た。

しかしここに困ったことが出来た。それは金が予て魔薬入りのゴールデン・バットをバラ撒いていた女たちに与えるものがなくなったことだった。女たちの中でも、一番恐ろしい苦悩に襲われたものは、実にチェリーだった。