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ゴールデン・バットじけん

ゴールデン・バット事件

海野 十三

「新青年」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,946 字 · 46 页

青空文庫

チェリーはその頃、金の寵愛を集めていただけに、服薬量が大変多量にのぼっていた。だからチェリーは金を訪ねて、ヘロインをせびったのだった。

しかし金にとって、もういくらも貯えのないヘロイン入りのゴールデン・バットだった。ひとに与えれば、忽ち自分が地獄のような苦悶に転げまわらねばならない。だから最愛の情人であるチェリーの切なる乞いではあったが、バットを与えることを断然拒んだわけだった。

チェリーは拒絶されると、もう我慢しきれなくなった。どうしてもあの薬を手に入れなければならなかった。暴力に訴えても、たとえ殺人をしても……。彼女は全く気が変になって、あの重い砲丸を頭上に持ち上げた。金はこの思いがけない危険に室内を逃げ廻っているうちに、とうとうチェリーのために鉄の砲丸を擲げつけられてしまった。そしてあのような悲惨な最期を遂げたのだった。

さてそれから、チェリーは室内を葡いまわって、魔薬の入った煙草を探した。遂に煙草の隠匿場所がわかって、八本の特製のゴールデン・バットを手に入れた。彼女はそこで貪るように、あの煙草を喫ったのだった。喫っているうちに、次第に薬の効目はあらわれた、彼女は平衡な心を取りかえしたのだった。