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サーカスのしょうねん
サーカスの少年
小川 未明
「国民新聞 日曜付録」1929(昭和4)年7月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,095 字 · 7 页
そして、花からは、いい香いが、家じゅういっぱいにただよいました。
少年のすみかは、町裏の狭い路地でありましたから、平常は、はちや、ちょうなどはめったに飛んできたことがありません。それだのに、この花があるばかりに、どこからか、一ぴきのはちが飛んできて、それにとまりました。少年は、だまって、はちがみつを吸うのを見ていました。そのうちに、もう甘いみつが、たくさんになかったとみえて、はちは、さも名残惜しそうに、花のまわりを二、三べんも飛んでいましたが、途を迷って、家の内へはいり、あちらの障子につき当たって、そこで、ブンブン羽ばたきをしたのです。
「ばかだな。なぜこんなところへきて、花を探すのだ。もっと郊外の方へ飛んでゆけば、広い野原や、圃があるじゃないか。そして、そこには、いろいろの花が咲いているだろう。……そんなことを、このはちは知らないのかな。」
少年は、障子にとまって、出途を失い、困っているはちを見ながら、いろいろのことを空想しました。
これが、他の日であったら、あるいは、このはちを殺したかもしれません。しかし、いまは、そんな、残酷な心持ちにはなれなかったのです。