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サーカスのしょうねん
サーカスの少年
小川 未明
「国民新聞 日曜付録」1929(昭和4)年7月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,095 字 · 7 页
打たれたこともあれば、食物をへらされたこともあれば、蹴られたこともありました。彼は、いくたび泣いたかしれなかった。しかし、そのたびに、もし、ねえさんが、やはり、こうしたサーカスの中に、はいっているなら、自分と同じ苦しみを受けたであろうと思って、我慢したのでありました。
けれど、いつになったら、自分の探ねている姉にめぐりあわれるか、わからなかった。また、いつになったら、この苦しみからのがれて、幸福の日を送られるかわからなかった。彼は、そう思うと、憤然として、すきを見て、このサーカス団から逃げ出そうと苦心したのであります。
ある朝のこと、すこしの油断を見はからって、彼は、一座から逃げ出しました。そして、どこというあてもなく、ただ遠方へと、足に委せて走ったのです。うしろを振り向き振り向き、だれか追ってきはしないかと、気づかいました。ついに、その日の昼過ぎのころ、名も知らない、野原のはてにたどりついて、どっかりと草の上に倒れて、疲れきった体を投げ出したのでした。
頭をめぐらしたけれど、だれも、ここまで追ってくるようすはなかった。少年は、いまごろ自分が見えなくなったので、一座では騒いでいるだろうと思いました。