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シナーニしょてんのベンチ

シナーニ書店のベンチ

宮本 百合子

「文芸春秋」1928(昭和3)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,387 字 · 15 页

青空文庫

ラネフスカヤの性格は、いわゆる劇的に誇張されたものでないことが、今日でもロシアのある女のひとびとを見ると、私共に感じられる。もちろん桜の園以来、彼女は一九一七年、二〇年を経験した。ラネフスカヤのように無計算では生きられなかった。彼女は遙にしっかりした主婦らしさを備えている。然し、眼の中にか声の響の中にかどこかに、この暖かさ、善良さ、心持よい真率さがのこって生きている。ロシアの女優にとって生粋にロシア女であるラネフスカヤを演じることは自然だ。自然に生活の中にあるが儘に演出することがチェホフの劇作の力点であった。――ラネフスカヤは成功した。

ロパーヒンの成功も私は同じ理由だと思う。彼はラネフスカヤと玉突好きのあまりに紳士的な兄とに、桜の園を別荘地に開放することを頻りにすすめる。ラネフスカヤは、そんなことは思っても見ないし、聴く気もない。ぼーっとして、ただ金の入用とそれがどこからか来なければならない、それだけを感じている。(ここで面白く感じたのは、築地のラネフスカヤとここのラネフスカヤとに現れた、何か伝統の違いというようなものだ。築地のラネフスカヤは、ロパーヒンの云うことをとにかく一応は聴いた。