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ジロリのおんな

ジロリの女

坂口 安吾

前半「文藝春秋 第二六巻第四号」1948(昭和23)年4月1日、後半「別冊文藝春秋 第六輯」1948(昭和23)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,597 字 · 102 页

青空文庫

旅行は不参ということにして下さいませんか。さもなければ、私は胸の切なさに、死なゝければなりません」

ヤス子は黙然と無表情であったが、やがて始めて意志的に笑おうとつとめて、

「私、そんなお言葉を承るには馴れていないものですから、今すぐ私の本心からの御返事ができるかどうか、心もとない気持なのです。そうまで仰有います以上は、旅行に不参と致さなければいけないように思われますから、不参することに致しましょう。お言葉に逆らうことが致しにくいように思われるための御返事なのです。私の本心がそう致したいということとは無関係なことなのです」

ひどく冷静なものである。私もいくらか戸惑いした。次の言葉に窮したという気持であったが、そんなことではいけないと、ムリに機械に油をさすようにして、

「ありがたいシアワセです。おかげで私も安心しましたが、然し、ムリヤリあなたの気持をネジ向けていたゞいた心苦しさには、当惑、むしろ、罪悪、やりきれません。私はまったく御婦人に思いをかけるということは、下僕として仕え、尊敬するというタテマエですから、何かこう、社長めいてお話するのが変テコで、まして、その関係を利用しているようなのが、やりきれないのです。