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ジロリのおんな
ジロリの女
前半「文藝春秋 第二六巻第四号」1948(昭和23)年4月1日、後半「別冊文藝春秋 第六輯」1948(昭和23)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,597 字 · 102 页
社長なんかと思わずに、きいて下さい。私はあなたを尊敬し、おしたいしている下僕です。もとより私は、一介のヤミ屋、教養とても低い男です。無数に恋もしてきました。私は然しいつも恋に仕え、愛人に仕えることを喜びとしたものです。私は結婚しようの何のと、そんなウソはついたことがありません。私はいつも下僕と遊んで下さい、たゞ遊んで下さいと頼むのです。どうせ私のような者には、はじめから御気に召して下さる御婦人はありませんから、私はいつも、必死にたゞもう頼むのですよ。その代り、お気に召すよう、どのような努力も致します。仰せにしたがい、どのようにもして実を見せます。水火をいといません。どの愛人にも、そうでした。然し、ヤス子さん、地位も学もない私如き者のことですから、私のかかわりあった御婦人も御同様、学も理想も気品もない方々ばかりで、これはひとえに敗戦によるタマモノでしょう、あなたのような高貴な、また識見高い御婦人に近づき得るなどゝは、夢のような思いなのですよ。あなたから見れば、下賤、下素下郎、卑しむべきウジムシに見えるでしょうが、恋に奉仕する私の下僕の心構えというものは、これはともかく、私がとるにも足らぬものながらこの一生を賭けているカケガエのない魂で、これだけが私の生存の意味でもあり、誇りでもあり、私の全部でもあるのです