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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

「改造」1931(昭和6)年7~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页

青空文庫

「よめた? あのビラ――」

やっぱり、同じこと考えてたのか!

信吉は嬉しくなって、熱心に、

「読んだとも!」

と答えた。

「よく書けてる」

「――集会へ出るだろ?」

「出る」

「じゃいいワ。――終り!」

失敬するようにサッと片手を信吉に向って振り、オーリャはまた仕事にかかる。信吉も自分の台へ戻った。

四

「おーい、誰か鉛筆もってないか?」

幾重もの人垣の中に脚のガタついたテーブルが軋んでる。労働通信員グーロフが襟あきシャツのポケットじゅうを探りながら怒鳴ってる。

「おい、鉛筆……」

「ホラよ」

テーブルの前へ突立っていたヤーシャが、金網をかぶせた腕時計を覗いた。ちょっと爪立つような恰好でテーブルへ手をかけ、

「タワーリシチ!」

喋りはじめた。

「シッ!」

「シッ!」

「――静かにしねかってば!」

バッタン! 誰かが後で脚立をひっくりかえした。

入口からは、肩へ長い手拭いをひっかけ、その端で頸ねっこを拭きながら、まだ濡れた髪の束を額の前へたらしたのが、ゆっくり靴をひきずってやって来る。

ヤーシャは、はじめ遠くそっちの方を、だんだん、人垣の真中ごろへ目をつけながら喋り出した。