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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

「改造」1931(昭和6)年7~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页

青空文庫

「タワーリシチ! 昨今われわれソヴェト同盟で、一般的な食糧困難が起っている。モスクワでさえ、もう何ヵ月も肉類、野菜が足りない。現に鍛冶部では牛乳配給にさえ差支えた程だ。こりゃ、一体何故だ?」

涼しい窓枠のところへ背中をこごめて数人が腰かけてる。中から、

「そいつが知りてえところだ!」

「シーッ!」

「今日の『プラウダ』をみんな読んだか?」

次第に確信に充ちた親しみ深い調子でヤーシャが続けた。

「いい論文が党中央委員書記によって書かれている。――ハッキリ、食糧困難の原因が示されてる。われわれは、社会主義建設に従うプロレタリアートとしてこのことを理解しなけりゃならねえ。現在ソヴェト同盟にある食糧困難は……食糧困難は、偶然の現象……つまり雨が降りすぎて、どっかの畑でキャベジが腐ったというようなもんじゃない。五ヵ年計画によって階級闘争が激化された。その結果だ。問題の本質は、ジャガ薯には無え。富農とその手先の計画的奸策にあるんだ」

蹲んで所持品棚の樺の戸へよっかかっているのが、下を向いて煙草を巻きはじめた。

瞬間、同じようにきき飽きた、熱している喋りてとハグれた気分がスーッとみんなの間に流れるのが、信吉に感じられた。