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チェーホフしろん
チェーホフ試論
神西 清
――チェーホフ序説の一部として――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,618 字 · 41 页
この比較は面白い。もっと本質的な方面についても、立派に通用する比較である。生まれも気質も時代も生活も作風も、およそ正反対と言っていいほどの二人ではあるが、おなじく「ロシアの西欧人」だった点で深く共通するものがある。
愛や結婚についてのチェーホフの言葉を少し拾ってみよう。
――僕は結婚していないのが残念だ、せめて子供でもあればいいが――と二十八歳の手紙には書いてある。――恋ができたらいいがと思う、烈しい愛のないのはさびしい――と四年後の手紙は訴えている。勿論それもこれもいつもの冗談口調だが、さりとて単純な反語でもなく、そこに現われている憧憬の表情はかなり複雑だ。いわば愛情への直接の憧憬ではなくて、その憧憬への憧憬とでもいった妙に間接的なものが感じられる。それから数年後の彼は、――愛とは昔大きかった器官が退化した遺物か、将来大きな器官に発達するものの細胞か、そのどちらかだ――と手帖に書きとめる。これには眉をひそめたいらだたしい表情が感じられる。また同じころ、――孤独が怖ければ結婚するな――と手帖に書きこむ。更にまた数年後、――恋とは、無いものが見えることだ、とメンシコフに語る。