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ツルゲーネフのいきかた

ツルゲーネフの生きかた

宮本 百合子

「文化集団」1934(昭和9)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,189 字 · 22 页

青空文庫

や「煙」を書いている。

ロシアの急進的な若い男女は、階級と階級との益々明らかな対立、そこから生じる現実の烈しい鍛錬によって、「ルージン」の時代から「その前夜」「処女地」へと推移した。ツルゲーネフも、それにつれて外側から観察しそれぞれの時代の作品を書いて行ったが、パリにおける自身の生活の実践ではヴィアルドオ夫人に支配され、始めの時代の懶い形態から本質的には何の飛躍もしないままに残ったのである。

同じように婦人のために生涯多くの経験をもったバルザックの生きかたとツルゲーネフの生きかたとを思い合わせると、私は実に活々した興味と教訓とを覚える。

ツルゲーネフより十九年上のバルザックは、ベルニー夫人やアブランテス公夫人との様々な交渉の間に、自分の経済的必要から、種々の或る場合は極めて筋のあやしい事業にまで手を出し遂に悲劇的な生涯を終ったが、それらの社会的実践の間にバルザックは嶮しく現実の社会で対立する利害と渡り合い、あのようなリアリストとして、自身自覚しなかった役割を歴史の上で果した。

ツルゲーネフは、自分の社会生活においての消極的な面、従って作家としても非現実的に陥り易い面を一番傷けず、苦しめずにおく温床のようなヴィアルドオ夫人との交渉の裡にすっかりうずまって、自分の文学的才能にだけたよって暮した。