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トコヨゴヨミ
トコヨゴヨミ
田山 花袋
「早稲田文学」1914(大正3)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,449 字 · 38 页
」こう独りで言って、大きな自然に圧迫されたように後頭部に両手を当てて、死んだようになって、一時間も二時間も草原に寝ころんでいることなどもあった。
「おーい。」
などと大きな声を立てて、気違いのように手を振ったりなどした。
長い山路を通りながら、勇吉はまたよく昔のことを考えた。山路を一人歩いて行くかれに取って唯一の道伴だと言っても好い位であった。いろいろなことがかれの頭に衝き上るように集って来たり散ばって行ったりした。
東京で暮した一年の生活、それがいつでも一番先に湧き出すような力でかれに蘇って来た。顫えるような神経をかかえて、かれはある作家の玄関にいた。其処でかれはいろいろな人を見た。当時の文壇で名高かった小説家だの詩人だのを見た。美しい若い文学志願の女の群などにも逢った。恋、功名、富貴――そういうものの中に小さくなってぶるぶる顫えているようなかれであった。かれの崇拝した作家は東京の郊外にいて、トタン張の暑い書斉で、大きな作を試みて熱心に筆を執っていた。田舎で想像して出かけて行った心持や希望が逸早く氷のように解けて行って了ったかれを勇吉は歴々とその山路に見た。