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トコヨゴヨミ
トコヨゴヨミ
田山 花袋
「早稲田文学」1914(大正3)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,449 字 · 38 页
一年いても何うにもならないので絶えず焦々して神経を昂らせていた彼、持っている思想を紙にのばすことが出来ないで煩悶した彼、美しい女の幻影にあこがれて輾転反側した彼、キラキラする烈しい日光のような刺戟に堪えられずに絶えず眩惑する頭を抱えるようにしていた彼、蒼白い髪の長い顔をして破調の詩に頭を痛めていた彼、下劣な肥った家婢と喧嘩して腹を立ててその頭を撲って怒られた彼、電信柱が人間と同じく動いているような気がして驚いて帰って来た彼、郷里の友達の学校生活を羨しく思って一夜寝られなかった彼、――そういうものは、いつも一人歩いて行く勇吉の道伴になっていた。東京から帰って、腹立ちまぎれに、自暴まぎれに、郷里のある家に火を放けようとして、気違扱いにされて、遠い田舎にやられたことなどもかれは時々思い出した。「何うしてこうだろう。何うしてこう頭が悪いんだろう。」かれは以前にもよくこう思って、顔をしかめて頭を叩いたり何かしたが、今でも矢張りかれは頭のことを絶えず気にしていた。歩きながら、コツコツ自分で頭を叩いて見たりした。
「こんな立派な思想が自分にはあるのに――。」今でも何うかすると、そう思って、こうした僻境に年を取って行くのを勇吉は情なく思った。