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ニューフェイス

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坂口 安吾

「小説と読物 第三巻第七号」桜菊書院、1948(昭和23)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,479 字 · 25 页

青空文庫

「なア、お前は本当に声楽家になりたいのかえ。よっぽど声楽がうまいのか」

すると女が言下に答えた。

「ウソなのよ。私、小学校も女学校も、声楽なんか、カモばっかりよ。本格のソプラノなんか、一度も唄ってみやしない。流行歌だって満足に唄えないのよ」

「ウムム」

千鳥波は、うなった。この女には色々のことで唸らされる。

「然し、あの金切声は真剣そのもの、必死の気魄じゃないか。あれが狂言とは、それは嘘だろう」

「無論、狂言じゃないわ。真剣でもあり、必死でもあったわよ」

「じゃア、できもしない唄をうたって、声楽家になれるつもりでいるのか」

「私は自分の力について考えてみない主義であるのよ。あらゆるチャンスに、おめず、おくせず、試みてみるのよ。全てを人の判断にまかせて、試みによってひらかれた自然の道を歩きつゝ進む主義であるのよ」

「ウムム」千鳥波は、また、うなった。

「それは、その主義であるのか」

然し、ふと気がかりになって、言った。

「なんでも試してみる主義なんだな。パンパンなんかも、試したのかい」

しばらくの鋭い沈黙ののち、「無礼」小さな、然し、氷の如くきびしく怒りに澄んだ呟きがもれた。