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ニューフェイス

ニューフェイス

坂口 安吾

「小説と読物 第三巻第七号」桜菊書院、1948(昭和23)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,479 字 · 25 页

青空文庫

それは、めざましく鋭く高い怒りに燃えていたゝめに、無礼を許している意味でもあった。

女が立ちどまった。

「そこが私のウチよ。どうも、ありがとう」

「そうかい。じゃア、おやすみ。あしたも手伝いに来てくれるね」

女は黙って、うなずいた。そして、千鳥波の大きな手を握ったが、

「あのネ、あなたの店、ラジオがないから、私、すきなのよ」

「なぜ」

「私もラジオがきらいなのよ。あんなものをきくと、声楽家だの女優になりたくなるでしょう。これ、無意味なことであるわ。私、さびしくなるのよ」

千鳥波をジッと見上げて、そしてにわかに振向いて我が家へ駈けこんで行った。

「ウムム、畜生!」

千鳥波は、みちたりて、うなった。彼はついに、わが生涯の恋が、こゝにはじまりつゝあることを悟った。

それはそれが果してチャーミングでありしことを傲然とシン公にうそぶく幸福を考えて酔った。然し、思えば、シン公のあの文章も、わが胸の思いに思い当るところがあるような気がした。