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バルザックについてのノート
バルザックについてのノート
宮本 百合子
「歌声よ、おこれ」解放社、1947(昭和22)年8月発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,421 字 · 9 页
そのように、バルザックは飽くまで、関係を描く作家であったから、発端した関係をどこまでも進展させ、発展させるためには、作中の人物たちの性格を、発端において登場したままの本質で一貫させなければならなかった。
リュシアンはどこまでもリュシアンでなくてはならず、ダヴィドはどこまでもダヴィドでなくてはならなかった。そういう人間の性格の確定の図どりの上に、はじめて、諸関係は益々紛糾し得るのであるし利害は益々錯雑し、近代そのものの複雑を示して展開する可能をもったのである。
ディケンズはクリスマス・カロールの中で、主人公をクリスマスの晩に転心させ、俄に慈悲の心にめざめさせた。それ故あの小説はそこで終らざるを得なかった。
バルザックは、クリスマス・カロールに向って鼻の頭に立て皺をよせるに止ったろう。バルザックの人物を典型的という名でよぶ習慣が、いつか文学の世界に入って来ているが、私たち人間そのものの動きに立って、バルザックの文学における虚構の真実をふわけするならば、彼の人物たちは、典型というよりも寧ろ原型にちかい。
利慾、狡猾、打算、すべて「名誉のうらには金がある」