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バルザックにたいするひょうか
バルザックに対する評価
宮本 百合子
「文学古典の再認識」芸術遺産研究会編、現代文化社、1935(昭和10)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,904 字 · 62 页
彼は金の融通の切迫した必要から銀行の組織に精通し、パリじゅうの高利貸と三百代言を知り、暫くではあるが公債のためにサン・ラザールの監獄へぶちこまれた。再び狼の爪につかまれぬためには、変名して手紙を受とったり、住居を晦したり、辛酸をなめた。母親とベルニィ夫人の助けで一時は凌いだが、バルザックはこの破綻で「単に貧しい男となったのみではない。」「苦しい借金を免れ、母から借りた金を返すために生涯の間休息も安眠も出来ず働かなければならない」端目に陥ったのである。「経済の安易を求めて却ってその困窮を招いた」わけである。
多くの伝記者は、バルザックが常に好んで「私の借金、私の債権者ども」と云ったことを記録している。彼は、この二つのものの中に、彼の大きい真情を傾けて敬愛しているベルニィ夫人と母までをこめて、考えねばならぬ端目になった。ブルターニュの昔からの知人の家へ暫時息ぬきに出かけた。パリへかえってカシニ街にどうやら身を落付け、バルザックは再びペンをとりはじめた。負債と負債にからまって押しよせる一軍団の敵に立ち向うために、彼は只ペンの力だけが真に自分にのこされた最後の武器であることを自覚したのである。