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バルザックにたいするひょうか
バルザックに対する評価
宮本 百合子
「文学古典の再認識」芸術遺産研究会編、現代文化社、1935(昭和10)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,904 字 · 62 页
芸術はこの世界をあるがままに描写していればよいのではありません。この意味で人及び芸術家としてのトルストイは到底バルザックなどの及ぶところではないと思います。」と、現実観察の急所にふれているのである。
一八三〇年七月革命後、常に蝙蝠傘をもって漫画に描かれた優柔不断のルイ・フィリップがブルジョアジーの傀儡君主として王位についた時、一層凡庸化し、銭勘定に終始する俗人共の世界に反抗して、ユーゴー、ド・ミッセ、デュマ、メリメ、ジョルジュ・サンドなどは、いずれもそれぞれの形で日々の現実から離脱しロマンチシズムの芸術にたてこもった。或るものは異国趣味の裡に、或るものは歴史小説の中に、ジョルジュ・サンドは彼女の穢れない女性の霊魂の描写の中に。法律学校を出たきりのバルザックばかりは、他の作家たちのようにそれにたよって現実から遁走するためのどんなギリシャ芸術の蘊蓄も古文書に対する教養も持合わせていず、天性の豊富な想像力が活躍するとなれば、それは必ず極く現実的な内容しか持てなかったという事実は、何と意味深い示唆であろう。成程バルザックは、沢山旅行をし、サルジニアや南部ロシアへまで出かけたこともあった。