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ヒルミふじんのれいぞうかばん
ヒルミ夫人の冷蔵鞄
海野 十三
「科学ペン」三省堂、1937(昭和12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,412 字 · 29 页
経済状態はそのようにして置いて、只身体だけをヒルミ夫人のもとから解放したいと思っていたのである。
そんな贅沢な願望が、うまく達せられるものであろうか?
だが万吉郎も、ただの燕ではなかった。もとを洗えば、不良仲間での智慧袋であり、参謀頭でもあった。奈翁の云い草ではないが、彼の覘ったもので、ついぞ彼の手に入らなかったものなんか一つもなかったぐらいだから、或いは頭脳の絶対的よさくらべをして見ると、万吉郎の頭脳はヒルミ夫人のそれに比して、すこし上手であったかもしれない。
万吉郎は、この六ヶ敷い問題の解答をひねりだすために、気をかえて、昔彼が好んで徘徊していた大川端へブラリと出かけた。
どす黒い河の水が、バチャンバチャンと石垣を洗っていた。発動機船が、泥をつんだ大きな曳船を三つもあとにくっつけて、ゴトゴトと紫の煙を吐きながら川下へ下っていった。鴎が五、六羽、風にふきながされるようにして細長い嘴をカツカツと叩いていた。河口の方からは、時折なまぐさい潮の匂いが漂ってくる。
万吉郎は宿題をゆるゆると考えるために、人気のない川添いの砂利置場に腰を下ろした。
なにかこう素晴らしい思いつきというものはないか?