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ヒルミふじんのれいぞうかばん
ヒルミ夫人の冷蔵鞄
海野 十三
「科学ペン」三省堂、1937(昭和12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,412 字 · 29 页
口実をつくって、旅に出ようかとも考えた。だが永くてもせいぜい二、三ヶ月のことであった。一生の永きに比べると、そんな短い期間の解放がなにになろう。
発狂したことにして、病院に入ったことにしてはどうであろう。しかし病院をしらべられるとすぐお尻がわれる。
ではヒルミ夫人を巧みに殺害してはどうであろうか。いや人殺しなんて、およそ万吉郎の趣味にあわないことだった。怪しまれでもして、本当に刑務所に送られてしまえば、そんな大きな犠牲はない。
それでは誰かすこぶるの好男子をさがしだして、不倫を強いるようで悪いが、ヒルミ夫人が恋慕するようにはからってはどうであろうか。やっぱりそれも拙い。ヒルミ夫人はそんな多情な女ではない。ただ一人の万吉郎を狂愛しているのであって、そうは簡単に男を変えるような夫人ではない。ではこれも駄目。――
万吉郎は無意識に砂利場の礫を拾っては河の面に擲げ、また拾っては擲げしていた。
すると突然意外な事件が降って湧いた。万吉郎の前に、河のなかへ落ちこんだ高い石垣がある。その石垣の向うから、不意に人間の首がヌッと現れたのである。
「――よせやい。なんだって俺に石を擲げるんだ。