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フランセスのかお
フランセスの顔
有島 武郎
「新家庭 第一巻第一号」玄文社、1916(大正5)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,859 字 · 24 页
しかしその家に近づいた私の眼は私の空想を小気味よく裏切ってくれた。エメラルドの珠玉を連ねわたしたように快い緑に包まれたこの小楽園はいったい何処から湧いて出たのだ。母屋の壁の鼠色も収穫小屋のまだらな灰白色も、緑蔭と日光との綾の中にさながら小跳りをしているようだ。木戸はきしむ音もたてずに軽々と開いた。私はビロードの足ざわりのする芝生を踏んで広縁に上がった。虫除けの網戸を開けて戸をノックした。一度。二度。三度。応える者がない。私はなんの意味もなくほほえみながら静かに立ってあたりを見廻した。縁の欄干から軒にかけて一面に張りつめた金網にはナスターシャムと honey-suckle とが細かくからみ合って花をつけながら、卵黄ほどな黄金の光を板や壁の所々に投げ与えていた。その濃緑の帷からは何処ともなく甘い香りと蜂の羽音とがあふれ出てひそやかな風に揺られながら私を抱き包んだ。
突然裏庭の方で笑いどよめく声が起こった。私はまた酔い心地にほほえみながら、楡の花のほろほろと散る間をぬけて台所口の方に廻った。冬の間に燃き捨てた石炭殻の堆のほかには、靴のふみ立て場もないほどにクロヴァーが茂って、花が咲きほこっていた。