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フロレンス・ナイチンゲールのしょうがい

フロレンス・ナイチンゲールの生涯

宮本 百合子

「婦人朝日」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,310 字 · 21 页

青空文庫

「彼女の生涯の大成果は、病気の科学的な取扱いに非常な刺戟を与えたことである。しかし真の科学的方法への理解は彼女に縁遠いものであった。彼女はこれまでの活動家の一人として、経験論者であった」と有名なイギリスの伝記者リットン・ストレーチーは率直にいっている。パストゥールとリスターによって病原菌が発見され、世界人類の病と死とは飛躍的に克服されるようになったが、彼女は「病原菌狂信」を嘲笑し「伝染」というものはないとした。しかし、新鮮な空気の利きめは彼女が自分の目で見、その手で開けた窓々からスクータリーへ導き入れたのである。新鮮な空気が必要なのに、窓を密閉していたとき、それを開放した彼女の方法は貴重であった。けれども、気温が全くちがい、暑さの全く違うインドで、病室を開け放したらどうだろう。全インドの医者が、インドで窓を開けたら病人の命は忽ち危くされると大抗議をしたのは当然である。彼女は組織者、企画者、行為する天才であった。が、近代科学者ではなかった。経験にたよってその範囲での成功を固執する彼女の主観的な態度そのものが、科学的でなかった。いってみれば、貴族らしい強情さでもある。