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フロレンス・ナイチンゲールのしょうがい
フロレンス・ナイチンゲールの生涯
宮本 百合子
「婦人朝日」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,310 字 · 21 页
このようにしてその天稟の中に極端な行動の力と確信の力とをもったナイチンゲールが、その気質で少女時代からの宗教心と上流婦人らしい社会の見方の一面とをないまぜ三巻にわたる労働者のための宗教解説の本を書いたというのも、興味のあることだ。さきにのべたような当時の社会の巨大な息づきは、ヴィクトーリア時代の淑女の活動的な精力を、社会改善へ向けさせたのであったが、その社会の「悪の起源」を究明する段になると、ナイチンゲールは、スープをのむには匙がいると考えて、それを手に入れたと同様の解釈をしている。彼女によれば、神は全知全能であるから、唯一つであるその神と同じものをいくつも創れない、ために神は常に完全でないものをこの世に造らなければならないというのが、論旨であった。この本をナイチンゲールから寄贈されたジョン・ステュアート・ミルが、この本を手にした労働者と同様に、彼女の理屈はよく納得されないといった時、四十歳に達していたフロレンスはさも意外な面持であった。
社会における「悪の起源」は神が完全であるからではない。社会全般の生活の安定のために働くべき生産の手段――工場や機械などが、それを所有している少数の人々の利益のためだけに運転されて、労働者は、一生ただ日々を生きてゆくための賃銀しか支払われていない、という近代資本主義の