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フロレンス・ナイチンゲールのしょうがい

フロレンス・ナイチンゲールの生涯

宮本 百合子

「婦人朝日」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,310 字 · 21 页

青空文庫

心あるイギリス人は、この富と貧との新しい社会悲惨の図絵に無関心でいられず、ひろがる犯罪、流行病から自分の家族を安全にあらせようと願えば勢い都市の衛生、都市の施設というものを議会の問題とせずにはいられなかった。文学の世界で、写実主義がおこってディッケンズがあらわれ、ロンドンの下層の生活の悲惨を描いたのがこの時代であった。サッカレイが「虚栄の市」「ペンデニス」「ニューコム一家」などで当時上流を占めた投資家貴族の生活を辛辣に描き出したのもこの時代であった。ロシヤではツルゲーネフが「猟人日記」からひきつづき、その時代の若いロシヤの青年男女の姿を「その前夜」「処女地」などに描いた時代である。よりよい社会への願望、研究、行動が空想的であった前世紀の理想社会への憧れから科学的な社会主義の方向に高まりつつ、世界の卓抜な才能と思想とを方向づけていた巨大な一時代であった。たとえ、淑女らしさという金縛りを身にうけてはいても、その時代の先進国であったイギリス生れの知識婦人であったフロレンス・ナイチンゲールが、社会衛生、道徳改善の事業にその規模の大きい現実的な精力の対象を見出したということは、決して不思議ではなかったのであった。