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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
梅崎春生『ボロ家の春秋』。同一底本的分册已合并为一书。收入:ボロ家の春秋、Sの背中、黄色い日日、記憶、蜆、庭の眺め、凡人凡語。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 页
この非運に際して、もちろんのこと蟹江は嘆き悲しみました。涙がはてしなく流出して咽喉が乾くので、彼は水を飲んでは泣き、水を飲んでは泣き、一日中とめどもなく虫のように泣いていました。久美子が死んだことも無論悲しいが、安穏な家庭的平和がすっかり自分から去ってしまった、そのことが彼の胸をきりきりとかきむしってくるのでした。蟹江という男は、その真底においては、このように自己中心的な感じ方をする男なのです。彼はその風貌において貧しいのに、どこかしたたかな感じがするのも、おそらくその為なのでしょう。
『おれも良き夫であったが――』と悲しみの底で彼はしみじみ呟きました。『久美子もおれの良き伴侶だった』
悲哀がいつか疲労にかわり、その味気ない疲労にもやがて慣れ、そして一箇月ほど過ぎました。
ある日曜の昼間、久美子の遺品を整理していると、行李の中から、一冊の帳面が出てきました。表紙を見ると、『かりそめ日記・蟹江久美子』と書いてあります。久美子の日記帳らしいのでした。その字を見ると、蟹江はとつぜん涙が出そうになってきて、あわてて天井を向いたり、外の景色を眺めたりしました。