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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
梅崎春生『ボロ家の春秋』。同一底本的分册已合并为一书。收入:ボロ家の春秋、Sの背中、黄色い日日、記憶、蜆、庭の眺め、凡人凡語。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 页
彼はその姿を見るたびに、いつも強く「不能者」という言葉をかんじた。「不能者」という言葉が内包するすべてのものを。この若い不能者の家主には、色白の肉付きのいいおかみさんと、女の子がひとりいる。手癖がわるいと評判されているのは、この女の子だ。評判通りであるのかどうか、彼は知らない。両親の血をうけて、皮膚が白くて、あまり白いので、眼玉が青味がかって見えるほどだ。またその眼玉は絶え間なくよく動く。
「まだ凍ってんだってさあ」
その女の子が喚きながら、白木の表から駆けこんでくる。手には目笊をくるくるふりまわしながら。
「まだ凍ってんだってさあ」
何が凍っているのか。彼はそれを知っている。先刻街をあるいているとき見たのだ。魚屋に配給の冷凍魚が入荷して、積まれてあった。スケソウ鱈である。凍ってコチコチになっているから、まだ庖丁が立たないのだ。なにしろこの界隈は、ことに白木の家では、魚といえば配給魚しか買わないので、逆に配給魚であれば買わねばならぬという強迫観念におちているようであった。だから今日魚屋に何が入荷したかについては、ことに敏感である。しかしまだ凍っているのでは、仕方がないだろう。