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ボロやのしゅんじゅう

ボロ家の春秋

梅崎 春生

梅崎春生『ボロ家の春秋』。同一底本的分册已合并为一书。收入:ボロ家の春秋、Sの背中、黄色い日日、記憶、蜆、庭の眺め、凡人凡語。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,411 字 · 263 页

青空文庫

それに五十坪ほどの庭。それで全部です。たいへん古い家で、僕の推定では少くとも建ってから三十年は経過しているでしょう。雨は漏るし風は入るし、柱はかたむき廂は破れ、形容枯槁して喪家の狗の如く、ここらで金をかけて根本的にテコ入れしなきゃ、大変なことになりそうなのですが、そこはそれ誰の持ち家か判然しないものですから、誰も手出しをせず、ついそのままになっているのです。だんだん梅雨が近づくというのに、まったく憂鬱な話です。

こんなボロ家に、どんないきさつで僕が住み込むことになったか。先ずそれをお話し申し上げたい。

不破数馬という人物がいました。僕はこの男と昨年の春、都電の中で知り合ったのです。

都電の中で知り合ったなんて、ちょっと不思議に聞えるかも知れませんが、話はかんたんなのです。ある日僕が都電に乗っていると、僕の前に不破が立った。わりに混んでいて、僕は腰かけていたが、不破は空席がなくて釣革にぶら下っていたというわけです。もちろんその時、前に立っているのが不破という人物であるとは、僕は全然知らないし、また関心もなかった。同車の乗客に一々関心を持ってたら、神経がすり減ってしまうだけですからねえ。