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マクシム・ゴーリキイによってえがかれたふじん
マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人
宮本 百合子
「文学評論」1936(昭和11)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,801 字 · 20 页
これらの展覧会その他に刺戟を受けたばかりでなく、ゴーリキイにだけは会いたい心持がした。尊敬すべき作家、そしてその作品を愛読している作家としてはロマン・ローランがある。けれどもこの人とゴーリキイとの間には本能的に区別が感じられた。ロマン・ローランは、どこか、会う人間を窮屈にさせるところが直感される。よい意味にでも、或る窮屈さを予想される。けれどもゴーリキイは、人を自然にくつろがせそして真実にさせる力を天性そなえているように思われ、一九二八年の初夏レーニングラードで同じヨーロッパ・ホテルに泊り合わせた時、私は一度このたのもしげな芸術の先輩の風貌に接したいと思った。
晴れた穏やかな朝であった。案内された室は空で、大きな窓から朝日がさし込んでいる。テーブルがあって、上に冷えたトーストが一片皿にのって置かれている。誰か私より前に訪ねて来た者と話しながら食べた残りであろうか。ゴーリキイのように全大衆から歓迎をされている客の前からも、一片の白パンのトーストの残りをそこに残していることは如何にもその頃の生活の気分を現している。すぐ隣りの部屋に通じるドアが開いてゴーリキイが息子と連れだって出て来た。