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マクシム・ゴーリキイのひとおよびげいじゅつ

マクシム・ゴーリキイの人及び芸術

宮本 百合子

「婦人公論」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,075 字 · 30 页

青空文庫

十歳の時、ゴーリキイは詩のようなものをつくり、手帖に日記を書きはじめた。日々の出来事と本から受ける灼きつくような印象を片はじからそこへ書きこんだのである。が、それと知った聖画商の番頭は、奇妙な反り鼻の小僧を呼びつけて、云いわたした。

「お前は抜萃帖か何かを作っているそうだが、そんなことはやめちまわなくちゃいけない。いいか? そんなことをするのは探偵だけだ!」

一八八一年、ゴーリキイが十三の時、アレキサンダア二世が暗殺された。

人生の矛盾がますますつよくゴーリキイの心を不安にした。彼の周囲に充満しているのは無智やあてのない悔恨や徒食、泥酔、あくまで互にきずつけ合う残酷などであるのに、彼が読む本は何と人間の智慧の明るさ、生活の美などについて語っていることであろう。当時のロシアをみたしていた生活の浪費の苦痛がゴーリキイの心を狩り立て、十五の年、彼は故郷ニージュニを出て、遂にカザン市へ出て来た。何とかしたら大学に入れそうに思ったのであった。

ところが、カザンで若いゴーリキイを迎えたのは、一八六一年に歴史的ストライキをやり、数年後にはレーニンがそこで学ぶめぐり合わせになっていたカザン大学ではなくて、飢えであった。