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マクシム・ゴーリキイのひとおよびげいじゅつ

マクシム・ゴーリキイの人及び芸術

宮本 百合子

「婦人公論」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,075 字 · 30 页

青空文庫

の学生達が、むっつり黙って、だが全身の注意を集めて参加しているゴーリキイの目の前で「生えぬきだ!」とか「民衆の子だ!」とか感嘆し合うのが少なからず彼にばつの悪い思いをさせるのであったが、ゴーリキイは、彼らに対して深い興味と渇望とをもって接した。少くとも、生活をいい方へ向けようと努力している一団の人々をゴーリキイは見たのである。

この「人民主義」の学生達が「民衆」というものについて示す考えは、深くゴーリキイを驚ろかせ、且つ考えさせた。彼らは民衆を叡智と、精神美と善良の化身のように云うが、ゴーリキイが五つの年から観察し、まもれ、闘って来ている現実の生活で、彼は「このような民衆を知らなかった。」

パン焼場での労働は学生達の集会へ出ることを不可能にした。当時の急進的学生は、憎むべき徒食階級に対置して「民衆」を観念的に理想化するにとどまり、誰一人実際にパン焼工場の地下室へゴーリキイを訪ねて彼を鼓舞しなければならぬという必要には思いいたらなかったのであった。

ゴーリキイ自身の精神的飢餓と当時のロシア労働者の一部がインテリゲンツィアに対して抱いている辛辣な敵意が彼を苦しめた。