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マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
幼年時代・少年時代・青年時代
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页
「それは私を真直にした」と、ゴーリキイは顧みて書いている。「忘れ得ない日々であった。」
日曜日に、礼拝の後ロマーシとゴーリキイとは店をあけた。店の入口に百姓が集りはじめた。往来を晴着を着た娘達が通り、釣竿をかついだ子供が走り、がっしりとした百姓たちが、店の連中、そこにかたまっている群を斜に見、黙って縁なし帽やフェルト帽をあげながら通って行った。その夕方、ロマーシはどこかへか出て行った。小屋に独りいたゴーリキイは、十一時頃、不意に往還で射撃の音をきいた。どこか、近くで発射されたのであった。雨が降り出していた。闇へとび出して見ると、ロマーシが、大きく、黒く、急がず水の流れをよけて、門の方へ歩いて来るのを見た。誰か、棒材を持った奴がロマーシを襲った。
「どけ、撃つぞ、と云ったがきかないんだ。で、俺は空へ向けて撃ってやった。――空にゃ傷がつかないからな」
ゴーリキイは非常によく生活しはじめた。規則正しい読書。一日一日が新しい重要なものを齎した。ヴォルガの漁師イゾートの快い、感動的な素朴さは、ゴーリキイの心を動かした。イゾートは孤児で、土地を持たない百姓で、漁師の仕事でも孤立していた。