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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

イゾートは百姓について云った。

「奴等が親切だなんて思わねえがいいよ、ありゃ、ごまかしの狡い人間共だ。――農民は、群れで仲よく生活しなけりゃならねえ。そうすりゃ力になる! ところが金のある奴等は村を割っちまいやがる。全く! 自分で自分の敵になるんだ」

美しい、貧しいヴォルガの漁夫イゾートのこれらの言葉は、鋭く当時のロシアの農村の現実につき入っている。ナロードニキ出のロマーシは、他の農村派の人々よりは、現実的に農民を理解していたであろう。彼は、農奴解放が行われて僅か三十年しか経たないロシア農民には、まだ自由とは何かということを理解するには困難であること。農民は政治上の自治権を獲得しなければならないこと。自分達の組合をもたねばならないこと。それ等をよく理解していたらしい。けれども当時ロシア関税政策の結果として起った農村の窮乏。地代の騰貴。七分、八分五厘という高利の「農民銀行」を利用する富農の強化などによって、驚くべき勢で農村の階級的分裂が促進されつつあった。ロシアには一千万の労働者と、その二倍の貧農が発生しつつあった。ロマーシとゴーリキイのまわりに親密な感情をもって集ったのは、クラスノヴィードヴォの村での、そういう貧農たちと、進歩的な、中農なのであった。