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マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
幼年時代・少年時代・青年時代
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页
悪態、罵声、悪意が渦巻き、子供までその憎悪の中に生きた分け前を受ける苦しい毎日なのであるが、その裡で更にゴーリキイを立腹させたのは、土曜日毎に行われる祖父の子供等に対する仕置であった。鋭い緑色の目をした祖父は一つの行事として男の子達を裸にし、台所のベンチの上へうつ伏せに臥かせ、樺の鞭でその背中をひっぱたくのであった。ゴーリキイはこの屈辱に堪えることが出来なかった。死んだ父親のマクシムはゴーリキイを打擲したことはなかった。だと云って、五つの子供が一週間何一つ折檻の種をつくらずに暮すことなど、どうして出来よう。或る土曜日、ゴーリキイは猛烈に抵抗して猶更祖父さんからひどくひっぱたかれ、最後まであやまらないで気絶したことがあった。このことでゴーリキイは熱病にかかり、永い間寝床から起きられなかった。ほかの従兄弟らは、依然として土曜日になると樺の鞭をくって泣き声を立てつづけたが、ゴーリキイの抵抗は遂に祖父さんを屈服させることが出来たのであった。
アレキサンドル二世が形式的な農奴解放を行ったのは一八六一年であった。ゴーリキイが生れた時分、農奴制そのものは廃止されていた。