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マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
幼年時代・少年時代・青年時代
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页
皆の服にブラッシをかけ、サモワールを沸かし、家じゅうの煖炉に薪を運んでおいて、食卓用の薬味入れを磨く。これだけが家での用事であった。店では床磨き、掃除、お茶の用意、お得意への品物配達、昼飯を家から運んで来ること。これらの仕事が、玄関番の役の上に加るのであった。主人はずんぐりな、眼の小汚い男で、よくゴーリキイをたしなめた。
「ほら、また腕なんか掻いてる! お前は町の目抜の商店に勤めてるんだ。これを忘れちゃいけねえ。小僧ってものは扉口んところへ木偶のようにじっと立っているもんだ」
凝っと立っていることが、活々した子供のゴーリキイにはなかなか出来ない。しかも両腕は肱の辺までべた一面痣やかさぶたで、掻くなと云われても、掻かずにはいられないのであった。主人が、新参小僧であるゴーリキイの両手を視ながら訊く。
「お前は家で何をしていた?」
ゴーリキイは、あった通りのことを云った。
「屑拾い――そいつは乞食よりよくない。泥棒よりよくねえ」
「――泥棒もやったよ!」
主人は猫のように両手を帳場の上へ置いてびっくりした。そして、声を変え、
「なんだ? 泥棒もやった? 何を? どんな風に?」