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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

暫くすると、今度は荷車人夫と一緒にやって来て、料理女の足の方と頭の方に手をかけ、往来へ運び出して行った。

「ペシコフ、床を拭いて置きなよ!」

主人が命令した。

「夕方死んでくれて、まあ助かった……」

どうして夕方死んだからいいのか。小僧ゴーリキイには分らない。

夜、台所の隅で寝る時になると、サーシャがこれまでになく優しい調子で、

「ランプは消さないんだよ」

と云った。

「こわいのかい?」

サーシャは黙っている。やがて蒲団の中から頭を出して云った。

「煖炉の上へ行って並んで寝ようじゃないか」

「煖炉の上は熱いよ」

夜は静かな夜で、何だか夜そのものがきき耳を立てて何かを待っているようだ。

サーシャがやがて又云った。

「眠れないや」

「俺も、眠れない」

二人はいろいろ死人について云われている話をした。あたりは次第に寂しく、暗くなって来た。するとサーシャがいきなり、

「おい、僕の鞄を見せてやろうか」

と云い出した。小僧ゴーリキイは、疾うからサーシャの鞄には好奇心を動かされていた。番頭とサーシャとが時々しめし合わせて、店のものをちょろまかした。そのことをゴーリキイは見ているのであった。