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マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
幼年時代・少年時代・青年時代
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页
サーシャは勿体ぶって寝台の上に坐ったまま、ゴーリキイにその鞄をもって来させ、十字架と一緒に胸に下げている鍵で鞄をあけた。錠をあけ「熱いものか何かみたいに鞄の蓋を吹いて」中から下着をとり出した。鞄の中ほどまで色様々な茶の錫紙のレッテル、靴墨、鰯の空罐などがぎっしり詰っていた。
「何があるの?」
「今わかるよ……」
サーシャは鞄を両足で抱え、その上へかがみかかって祈祷をとなえた。「天の王様……」
今に玩具が現れるだろうと、ゴーリキイは思った。ゴーリキイは写真をとられたことがないと同時に、玩具というものは持ったことがなかった。玩具なんか軽蔑していたが、それは表向きで、玩具をもっているものを見ればやっぱり羨しかった。こんなひとかどの人間になったようにしているサーシャが玩具を持っているということは非常に嬉しかった。彼が恥しがっているとして、その極りわるさは、やさしい同感をゴーリキイに湧かせるのであった。
最初のボール箱が開かれた。中から、緑だけの眼鏡が出た。サーシャはそれをかけ、キットした様子でゴーリキイを見ながら云った。
「球がなくったって一向平気だ。これは、こういう眼鏡なんだから!」