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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

その喧嘩が厭わしく痛ましければ痛ましい程喜びに酔ったように見える彼等。船の機関の何処かが破裂して甲板が水蒸気で濛々となったりした時、実際の危険はなくても、その予感でもう怯え、戸惑い、喚き立てる船客等の恐怖心のつよさ。しかも、喧嘩も、恐慌もない時には、低いテントの下に坐り、或は寝そべりながら飲んだり食ったりし、親しげに真面目に語り合いながら河の面を見たりしている彼等。

ゴーリキイにはこれらの人々が「善人なのか、悪人なのか、平和好きなのか、悪戯好きなのか、又どうしてこんなに酷い、飽くことない意地悪なのか、どうしてこう意久地なくおとなしいのか」分らない。そして、この如何にもおとなしく、見るも気の毒な程素直な灰色の人々が、突然「その従順の殼を突き破って、むごたらしい、無分別な、そして大抵は不愉快極まる乱暴を爆発させるのを見るのは、実に意外であり」ゴーリキイの心に不可解な人生の姿の怖ろしさを覚えさせるのであった。

声をあげて泣き出しそうな心持でスムールイとわかれ、下船した後、ゴーリキイは再び因業な嫁姑のいがみ合っている元の製図師のところで働くことになった。