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マクシム・ゴーリキイのでんき

マクシム・ゴーリキイの伝記

宮本 百合子

幼年時代・少年時代・青年時代

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页

青空文庫

日夜妻と母親との口論に圧しつけられながら食堂のテーブルに製図板をのせて、ニージニの商人の倉庫だの店の修繕だのの図を引いている主人は、遠縁のゴーリキイに、約束どおり製図の修業をさせようとした。耳に鉛筆を挾み、長い髪をした主人が、或る日、両手に厚紙の巻いたのと、鉛筆、曲尺、定規とをもってゴーリキイの居場所である台処へやって来た。

「ナイフ磨きがすんだら、これを描いて御覧」

手本の紙には、沢山の窓と優美な飾のついた二階建の家の正面が画いてある。ゴーリキイは「本当の仕事と修業の始ったのを悦び」すぐ手を洗って修業にとりかかった。定規をつかってすべての水平線を引いたところまでは上出来であった。ところが縦に垂直線を引くと、恐るべき結果が生じた。窓がすっかり壁の中仕切のところへ飛び込んでしまったばかりか、明り窓は煙突の上にのっかってしまっている。ゴーリキイは、その時の困惑をまざまざと回想しながら書いている。「私は、長い間泣き面をして、その修正し難い奇怪事を眺めていた。」どうにも仕方なく遂に「想像力でもって修正することにした。」ゴーリキイは鉛筆をとり、先ず家の正面のすべての蛇腹と屋根の棟飾の上に烏や鳩、雀などを描いた。