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マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
幼年時代・少年時代・青年時代
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页
デレンコフは、明るい髯をむしりながら、痛ましくも薄笑いした。
「破産しちまうよ」
デレンコフの生活も亦苦しかった。彼は時々訴えた。
「みんな不真面目だ、何もかも持って行っちまう。お話にならない。靴下を半ダース買って置いたら、すぐ失くなってしまった」
この温和な、無慾な男が有益な仕事をうまくさせようとして努力しているのに、周囲の誰も彼もがその仕事に対して軽率な冷淡な態度をとってそれを破壊させつつある有様はゴーリキイの心を痛めた。デレンコフの父親は宗教上のことから半狂人になった。弟は放蕩をはじめ、マリアのところには何か芳しくないロマンスがある。そのマリアに、ゴーリキイは自分が恋しているように思われた。ゴーリキイの二十歳という年齢、たっぷりした強い感覚的な性格、生活の錯雑が、女の愛撫を要求した。女の親切な注意がほしかった。それによって自身の連絡のない思想の混乱を、印象の渾沌を捌いてゆきたかった。
だが、愛することの出来る女も、友達もゴーリキイは持たなかった。「加工を必要とする素材」としてゴーリキイを眺めている人々は、ゴーリキイの同感を呼び起す力を失った。彼等が当面興味をもっていないことについてゴーリキイが話しはじめると、彼等は遮った。