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マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
幼年時代・少年時代・青年時代
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,543 字 · 120 页
「そんなことはやめてしまえ」
だが、ゴーリキイにとって話したい、打ちあけたい生活の苦痛、錯綜した印象の回旋そのものはやまらない。減りもしない。当時は又夥しくトルストイアンが現れ「眼には憎悪と軽侮とを現わしながら『真理――それは愛です』と叫び」ながら客観的にはポヴェドノスツェフの反動政策の支柱を与えつつ、消極的な八十年代の人々の間を横行した時代であった。彼等はゴーリキイに向って説教した。
「人間が低いところにいればいるだけ、それだけ生活の本当の真実に、その聖なる叡智に近い……」
実際生活における彼等の虚偽と偽善を目撃することが、ゴーリキイの心に憎みを煮え立たせた。人間の生活において愛と慈悲との役割はどういうものであろうか。ゴーリキイにはこの生活は余すところなく愚かで、殺人的に退屈なように見えた。人々は言葉の上でだけ慈悲深く親切だが、実際の上では我知らず一般的な生活の秩序に屈服しているように思える。自分が尊敬し信じていたナロードニキの人達の暮しも例外でないという感想は、ゴーリキイを一層暗くするのであった。インテリゲンツィアの中にはもっと質のわるい毒気をふきかける人々もいた。