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マクシム・ゴーリキイのはってんのとくしつ

マクシム・ゴーリキイの発展の特質

宮本 百合子

「改造」1936(昭和11)年8月臨時特大号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,694 字 · 33 页

青空文庫

「あの手合いのようなお喋りを読む時、露骨に嫌悪を感じます。熱のある患者は食物を摂りたがらず、何か酸っぱいものという漠然とした要求をします。私も亦何か酸っぱいものが欲しい、そしてこれは単なる偶然ではありません」と。

この要求がチェホフに「桜の園」を書かせたのであったろう。然し、チェホフは自身の誠実な生活の全体で、当時の優秀な知識人が渇望していた「酸っぱいものへの要求」を、漠然としたものなりに歴史の進歩に向って声明し得たに止った。

若いゴーリキイが深い苦悩と歓喜とをもって経験したインテリゲンツィアとの相互関係の歴史は、チェホフの場合と本質的に異る。いわば新世界の創造の暁に、民衆が半ば目醒め、半ば暗さに置かれながら切実な要求に衝き動かされて熱心に餌じきを求め、直感的にその腐った部分とそうでない部分とをよりわけたのと似ている。「あの人の心の中には、何か調子はずれなものがあってよ。……人間の中にそういうものの在るのに気がつくと、私はその人が肉体的に不具なような気がして来るの。」これは、ゴーリキイがインテリゲンツィアを書いた戯曲「別荘の人々」の中でカレエリヤという女が云う言葉である。