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ウィタ・セクスアリス

ヰタ・セクスアリス

森 鴎外

「昴」1909(明治42)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页

青空文庫

飯の時にはお蝶がお給仕をする。僕はその様子を見て、どうしても蝶ではなくて蛾の方だなどと思っている。見るともなしに顔を見る。少し竪に向いて附いた眉の下に、水平な目があるので、内眦の処が妙にせせこましくなっている。俯向いてその目で僕を見ると、滑稽を帯びた愛敬がある。

お蝶は好く働く。僕は飯の時に給仕をさせるだけで、跡は何をしていようと構わない。お菜は何にしましょうと云って来ると、何でも好いから、お前の内で拵えるような物を拵えろと云う。そんな風で二週間程立った。

或日今年は親類の内に往っていると聞いていた尾藤裔一が来た。僕は学科の本に読み厭きていたので、喜んで話しかけたが、裔一はひどく萎れている。僕は不審に思った。

「君どうかしているようじゃないか」

「僕は本科に這入ることは廃めた」

「どうして」

「実は君には逢わずに国へ立ってしまおうと思ったのだ。ところが、親父に暇乞に来て聞けば、君がいるというので、つい逢いたくなって遣って来た」

お蝶が茶を持って出た。裔一は茶を一息に飲んで話を続けた。裔一の学資は父親の手から出ていない。木挽町に店を出している伯父が出していたのである。