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ひとつのあいじょう
一つの愛情
豊島 与志雄
「新小説」1949(昭和24)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,635 字 · 22 页
私のような者が下らぬお手紙ばかり差上げますこと、どんなにか先生のお気持を乱し御迷惑をおかけ致しておることでございましょう。私の我儘おゆるし下さいませ。
先生にいつか、私のような者のところへでも、いらして頂けます時がございましょうか。そんなことは夢にもないものなのでございましょうか。私のことを田舎に住んでいる下女とお思い遊ばして、勝手気儘にお振舞い下さいましたなら、どんなにうれしいことでございましょう。
先日、お米と煙草、少しお送り致しました。田舎には何もございませぬ。お許し下さいませ。
――――
一昨日姫路へ行きましたちょっとの留守に泥棒にはいられて、着物をすっかり取られてしまいました。生きた心地もなく、もう死んでしまおうと思います。考えていると、胸が痛くて御飯もたべる気が致しませぬ。
たまらなく淋しく悲しくなります。私が死んで、もし何か残るものがありましたら、それを先生にお貰い申して頂きましたら、どんなにうれしいことだろうかと思われますけれど、これはほんとうに失礼な申し分でございましょう。
どうか私に先生のことをお想いすること許して下さいませ。