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せんきゅうひゃくさんじゅうにねんのはる
一九三二年の春
宮本 百合子
「改造」(はじめの約15枚分)1932(昭和7)年8月号、「プロレタリア文学」(残りを追加して再掲)1933(昭和8)年1~2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,942 字 · 44 页
宮本とまたハバロフスクの雪のふる山の間をシベリア鉄道で何日も乗って行って見たい心持がしきりにした。
下諏訪には製糸女工さんを中心とする文学サークルがある。三月初旬に、作家同盟から江口渙その他三四人の講演団が行って、非常に愉快な講演会をもった。文学サークルの製糸女工さんが動員され、文学新聞に出ていた「セリプレン」という短篇小説を上手に実感をもって読んで喝采を博したという興味のある事実もあった。その時、わたしは皆と一緒に行けなかったので、塩尻まで来たついでに、サークルの人々に会って帰ろうと思ったのであった。
ステーションにサークルの世話役の人が出迎えてくれ、牛肉屋をやっている○○君の店へ行ったら、そこは下諏訪警察の近くだし、「ここじゃあないよ。大通りから右へあっちを廻ってと云ったろう?」と云うことだった。今度は番傘をさして雪の中を案内の人について、諏訪神社近くの大きい料理屋へ行った。廊下をいく曲りかしたところにドアつきの小部屋がある。西洋風に壁で一方だけに窓がひらき、大炬燵がきってある。そういう部屋に落付くと、直ぐ○○君がやって来て「ここは私の同情者でしてね、重宝ですよ」