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せんきゅうひゃくさんじゅうにねんのはる
一九三二年の春
宮本 百合子
「改造」(はじめの約15枚分)1932(昭和7)年8月号、「プロレタリア文学」(残りを追加して再掲)1933(昭和8)年1~2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,942 字 · 44 页
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雪は午後になっても降りつづけている。I君が、自転車でもう一遍サークル員のところを動員にまわると云って出かけた。I君は二十歳ばかりの青年だが、岩波書店のストライキで首切られ、下諏訪へかえって来てから○○君と一緒にサークルの仕事を積極的にやっているのだ。ふと○○君が、
「あなた、平田良衛君を知っていますか?」
と私にきいた。
「知っています。……どうしたの?」
「つかまりましたね」
「ほんと? いつ?」
「知らないんですか、きのうの新聞に出ていましたよ。小川君、野村さんという人、窪川鶴次郎もやられた」
「その新聞ありますか、あったら見せて下さいな」
わたしは三月二十八日の黎明に東京を立って塩尻へ来た。その日の新聞は見落しているのであった。女中が持って来た東京朝日新聞を見ると、三段ぬきの見出しで、プロレタリア科学研究所の山田勝次郎、平田良衛、野村二郎、寺島一夫、河野重弘等の同志たちが検挙されたこと、同時に、日本プロレタリア文化連盟書記長小川信一の家で書記窪川鶴次郎、出版所長壺井繁治がやられたことが報道されている。文化連盟の正体暴露という風に、日本共産党と結びつけ、正式の党員であることを承認したとか煽情的に書かれている。