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ひとつぼかん

一坪館

海野 十三

未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,902 字 · 56 页

青空文庫

二人は、しばらく黙っていた。

「そうそう、おかみさん、これからどうなさいます」

「わたしゃね、これから弟のいる樺太へ帰ろうと思う。すまないけれど源ちゃん、この車で、上野駅まで送っておくれなね」

「はい、承知しました。しかし樺太ですって。ずいぶん遠いですね」

「でも、わたし身内といったら、樺太に店を持っている弟の外ないんだものね」と、矢口家のおかみさんは心細くいった。

「それはそうと、源ちゃんに、わたしお礼を何かあげたいんだが、何がいい」

矢口家のおかみさんは、生命などをすくってもらった礼に、源一に何か贈りたいが何がいいかといって、きかなかった。源一はさんざんことわったが、おかみさんはぜひというので、源一はふと心に思いつき、

「それでは、おかみさんの店の焼跡から、この角のところの一坪の地所を私にゆずって下さいませんか」

といった。

おかみさんはもちろん承知して、その場で譲渡証を書いてくれた上、土地の登記について矢口家の弁護士への頼み状までそえてくれた。これが源一が一坪の土地の持主となったいきさつである。

焼けあと整理

銀座の焼けあとの一坪の土地を、とうとう自分のものにすることができた飛島源一は、天にものぼるうれしさで胸がいっぱいだった。