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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
「うまくないよ。今日はぽっちりだよ」
青年達は縁を降りて、こもの方へ歩み寄った。
「俺はいいが、ここにいる定公に割前を忘れちゃいけないぜ」
もう一つの声がいった。よく見ると、大樹の黒い幹の根許に、一際黒く大きなうつろが口を開いていた。そのうつろの中に何者かが巣を食っている様子だった。
「分っているよ。ソラ、こんなのが三枚だ。くたびれちゃったから、少し息をつきに出て来たんだ。もう今夜はこれでおしまいだ」
青年達はこの塔の内部の、貴重な金具を取外して、それを売って生活していたのだった。賑やかな浅草観音の境内の、五重の塔の中に、こんな泥坊が忍び込んでいようとは、そこから一町とは距たぬ交番のお巡りさんでも、気がつかなんだ。
「ホウ、ホウ、ホウ」
突然少し甲高な鳥の声がした。
「オオ、合図だ。危ねえ危ねえ」
こもはそうつぶやいて動かなくなった。青年達も大急ぎで元のとびらの中へ隠れた。サーベルの音が塔の向うに聞え始めたころには、最早何の気勢も残っていなかった。
だが、彼等はそうしてお巡りさんの目を逃れることが出来たけれど、もう一つの目には少しも気がつかなんだ。塔の縁の下に紺の背広を着た一人の男が、最前からじっと彼等の様子をうかがっていた。