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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
それのみか、意外なことには、彼女にとっては実に有力な証人が現れた。というのは病中の山野大五郎氏が、当夜彼女が一度も寝室を出なかったことを明言したのだ。それによって山野夫人に対する嫌疑は一先ず解かれた形であった。
だが、少くとも小林紋三だけは、その位のことで夫人の無罪を信ずることは出来なかった。中之郷O町の怪しげな家については、紋三がそれを口外しなかったのは無論だが、何故か明智までも沈黙を守っているらしく、警察は山野夫人とかの不思議な跛の男との密会事件を少しも知らない様子だった。紋三はそれを夫人のために私に喜んでいたのだが、併し彼女に好意を寄せれば寄せる程、夫人に対するあの恐しい疑いは却て益々深まって行くのだった。
日々の新聞紙が、山野家の珍事について書き立てたことはいうまでもない。百貨店の片腕事件が未曾有の珍事であった上に、被害者が若い娘であること、加害者が非常に曖昧なこと、その上一寸法師の怪談までそろっているのだから、あのセンセーションを巻起したのは誠に当然だった。事件が評判になるにつれて、山野家関係の人々が胸を痛めたのは勿論だが、中にも主人公の大五郎氏は、一人娘を失った悲しみに加えてこの打撃に、にわかに病勢が募り、それが又一家の者の心配の種となった。